Fan zoneファンゾーン

vol.114 #19 鈴木 大誠

vol.114 #19 鈴木 大誠『「多くの人と、多くの喜びを共有したい」鈴木大誠というプロサッカー選手は、 自分だけでは構成されていないんです』

成功体験よりも、成功への意欲を持ち続けることを大切にしたい

Jリーガーとして、何を長所に進んでいますか?

ストロングポイントにしたいのは「ゴールを守れるプレーヤー」であるということです。目立ったプレーをしたいわけではないのですが、最終的にゴールを決めさせないために、最も守備の原則に則ったプレーをしている選手でありたいです。

いつ頃からそう思っているのですか?

大学時代の監督に「何かゴールを守れる。俺はお前のことをそう思う」と言われて、その言葉が自分の中に強く残りました。『何かゴールを守れる』って抽象的で「何やねん(笑)」とも思ったのですが、「他の選手が持ってない感覚なのかもしれない」と考えて、大学1年の頃から、そこを意識するようになりました。

実現できていますか?

正直、まだ実現できていません。プロのスピード感であったり、コンセプト自体も自分があまり得意としてきたことではない中で、今は順応することに全力を尽くしています。「ゴールを守ること」をベースにやってきましたが、正直なところプロで通用するストロングポイントが何なのかを模索中です。

自分の得意とするスタイルとは異なるコンセプトのクラブに飛び込んだことの“面白さ”と“難しさ”を聞かせてください。

自分の得意なスタイルであったとしても、苦手なスタイルであったとしても、僕はポジティブに捉えられます。自分がやってこなかったスタイルだからこそ、成長の幅はとにかく大きいと思うからです。そのおかげで、サッカーの“戦術”や“構造”についても深く考えるようになりました。同時に自分が「どれだけサッカーを深く考えてこなかったのか」ということを、リカルド監督に思い知らされている感じがします。自分の知らなかったことが、どんどん出てきますね。

解釈が難しいこともありますか?

そこが、面白いんですよ!自分の性格上、「何を言っているんや?→俺にはわからん」とは絶対になりません。自分なりに解釈してやってみる。成功した。失敗した。そういうことを積み重ねながら、少しずつ成功体験が増えてきていると思っています。とはいえ、成功が増えたこと自体が嬉しいわけではありません。成功も失敗もある中で、自分が成功への意欲を持ち続けられているかということを最も大切にしていきたいです。

小6からのサッカーノートと、
徳島に来てから気づいたこと

そういった発想を持てる自分を形成した根源はありますか?

おそらくですが、中学時代所属していたチーム(ソレステレージャ奈良2002)のコーチの教えが影響していると思います。その時に、一般的に言われる PDCA サイクル(計画→ 実行→ 評価→ 改善を繰り返しながら継続的に改善すること)を教えていただきました。目標を立てて実行し、その結果を評価する。そして、次の課題を導き出す。この流れを大事にしています。その影響でサッカーノートを書く習慣が身につき、課題と向き合えるようにもなりました。自分の思考の根っこは、そのときのコーチの教えにあると思います。

サッカーノートはいつから書いているのですか?

小学6年生のときからですが、自分に必要だと認識して書くようになったのは中学1年生の頃からです。中学時代は毎日、高校時代は試合ごとに書きました。大学時代に一度サッカーノートを書くのが「ダルい(笑)」なと思ったことがあり書くのを止めたのですが、そうしたらまったく調子が上がらなくなって…。「サッカーノートは自分に必要なものなんや!」と再認識しました。そのときにも、PDCAサイクルは自分にとって欠かせないものになっていると感じました。プロになってからは、感じたことも書くようにしています。

今はどんなことを書いていますか?

完全に「ビルドアップ」についてですね。オフェンス時の「思考回路」も記録しています。リカルド監督の戦術を自分なりに解釈し、次はどうするか、オフェンスのことをたくさん書いています。ただ、不思議なことにノートに記録しながら蓄積しているのに見返すことはないんですよね(笑)。でも、書いたことは頭の中に入っています。

「ビルドアップ」と聞くと技術面がフォーカスされがちですが、「思考回路」という点では何を考えていますか?

今までは出し手と2つくらいの選択肢(例えば、受け手とそこに関わる3人目の選手)、自分を含めて3~5人位の動きを考えてやってきた印象です。でも、徳島に来てからは、オフェンスには11人の連動が必要なんだと感じるようになりました。受け手の選手がそこにポジショニングしている理由は、その周りに4~5人の選手がいるから。その4~5人の選手がそこにポジショニングしている理由は、11人がこういうポジショニングをしているから…。つまり、徳島では11人それぞれのポジショニングに意味を持たせていると思います。その11人の連動を把握していないと、最も効果的なパスチョイスはできないと感じさせられています。

プロ初出場で知ったこと
そして、味わったさまざまな悔しさ

プロとして初出場した第3節・大宮戦(0●1)、途中出場した第14節・山形戦(1△1)の感想を聞かせてください。

大宮戦ではどれだけ結果を求められているのかを知りました。自分は結果と同じくらい内容や過程も大切にしてきましたが、「もっと結果にも貪欲になるべきだ」と感じさせられました。セットプレーでは得点できたチャンスがありましたし、失点を防げた可能性もありました。山形戦も大宮戦と同じです。やはり、結果を残せない選手は使えない。ハンドで PK を与えてしまった場面は、あらためて見直しても何が起こったかわかりませんし、どうすれば防げたかも分かりません。でも、いずれにせよ自分が監督なら、あんな選手は絶対に使わないと思います。そこから、まずは「自分に足りないところを補おう」「意識が及ぶところを見直そう」と考えました。(その次の出場機会となった)天皇杯2回戦で収穫はあったと思います。ただ、すごく嬉しかったわけではありません。あれだけ緊張感がある中で毎週のようにプレーし、貪欲に結果にこだわり、出場し続けているプレイヤーが他にいるわけですから。悔しい気持ちがあります。

選手権大会の優勝で
得たものと失ったもの

高校時代のことになりますが、第93回全国高校サッカー選手権大会(以下、選手権)で、星稜高校は選手権での初優勝を果たしました。トップまで行った人にしかわからない喜びや苦悩があるのではないかと思いますが、鈴木選手にとってはどんな大会でしたか?

あの大会では、珍しく「結果だけ」を求めていました。高校サッカーって、選手権が終われば終わりじゃないですか。

いい方向に働きましたか?

いい方向に働いたと思います。その大会の結果としては…。

「その大会の結果としては…」が意味することは何ですか?

「結果だけ」を求めるスタンスが強かったからこそ、その後の高校選抜から外れたと思いますし、大学1年の前期にまったく出場できなかったと思います。選手権では結果にはこだわりましたが、県予選から本大会まで、課題を見つけて改善するというサイクルをしてきませんでした。何かを積み上げようとする努力はしなかった気がします。その先の姿を想像することもなく、結果だけを求めてしまったからだと思います。

勝敗にこだわらない人はいません。だから、「勝敗よりも過程や内容」と発言すると誤解が生まれることもあります。そこについては、どう考えていますか?

正直、誤解されるのは仕方がありません。自分が少数派であることは自覚しています。結果を求められるプロという世界で、過程や内容の優先順位を高く設定している自分は特殊であり、致命的かもしれません。でも、自分だからこそできる過程を踏みたいですし、自分だからこそ与えられる価値をクラブに与えたいと思っています。もちろん、それは結果への貪欲さがないという意味ではありません。ただ、結果だけしか見えなくなれば、自分はこの世界では生き抜けないと感じています。チーム戦術の構築や、チームとしてどう積み上げていくのか、といった部分にも目を向け貢献することも自分の役割だと思っています。間接的な貢献かもしれませんが。

では、選手権優勝はどう捉えていますか?

いい思い出です。ただ、何かを得たという感じではありません。でも、自分に対する価値よりも、僕の周りで応援してくれた方や支えてくれた方に何かを与えられたという意味では、とても大きな価値があったのではないかと思います。「応援してくれている方と大きな喜びを共有したい」ということが、自分がプロ選手として最も大切にしている考え方ですし、その理由でしかこの職業を選んでいません。自分のチームが一丸となって結果を残すことは、応援してくれる方や、クラブや、家族や、友人に与えられる大きな喜びだと思っています。選手権で優勝したことで、支えてくれた人たち、星稜高校関係者の方々に何にも代えがたい喜びを与えられたのではないかと感じています。

鈴木大誠を構成する要素
「共有」という言葉の意味

プロを意識するようになったのは?

憧れや夢があったのは小さい頃からです。高校、大学と進学するにつれ、プロになりたいという気持ち以上に、「プロ選手になった上で何がしたいか」と考えるようになりました。同時に、サッカー選手になりたいという気持ち以上に、「サッカー選手として多くの方と喜びを共有したい」という考え方にシフトしていきました。

ほかの選手と比べたら、プロを志した経緯や目標も少数派の発想かもしれませんね。

鈴木大誠という個人だったら、どんな職業にでも就きたいです。例えば学校の先生や大学院進学、サラリーマン…。でも、過去に色んな人が支えてくれた鈴木大誠の選択肢はプロサッカー選手しかない。鈴木大誠というプロサッカー選手は、自分だけで構成されていないんです。この感じ、伝わるでしょうか?文面で(苦笑)。

プロ選手として、最も大切にしていることは?

「多くの人と、多くの喜びを共有したい」ということです。

相手方は嬉しいことですが、自分自身も何かを得られるのですか?

そこは「喜んで欲しい」ではなく、「喜びを共有したい」なので。ただ、自分の中で葛藤があった頃もあります。「仮に喜びを与えることができたとして、自分の感情に何が残るのか」、そう考えたときに、空洞を感じる時期もありました。でも、「なぜ周りの人たちに喜んでもらいたいのか」という根源と向き合ったとき、応援してくれる方や支えてくれた方との相互作用があるからこそ、周りの人に喜んでもらいたいのだと気付きました。だから「共有したい」という表現が最も正しいと感じています。それが自分にとっての幸せでもあるんです。

いい話で締めくくられましたね(笑)。

嘘は言ってませんから(笑)。ほんまの話なんです。

PAGE TOP